日光 中禅寺湖
観光客でにぎわう辺りから少し離れた湖畔の森を歩くと、イタリア大使館別荘があります。先日、そこへゲストとして招かれ行ってきました。
なんていうのは真っ赤なウソ。
昭和3年から平成9年までイタリア大使館別荘として使われてきた建物と周辺が、記念公園として一般に公開されています。
明治の中頃から昭和初期にかけ、中禅寺湖畔には各国の大使館や外国人の別荘が建てられ、箱根と並ぶ国際避暑地としてにぎわったのだそうです。現在も周辺にはフランス大使館とベルギー大使館の別荘がありますが、なるほど水と緑に満ちた風景は、ヨーロッパの避暑地を思わせます。
今回、ここで見ておきたいと思ったのは、建物の面白さ。全体としてヨーロッパ風の建物ですが、使われているのは見慣れた杉材。外装は板張りではなく杉皮張りにしてあるなど和の趣きを強く感じさせるけど、内装の意匠を見ると単に和洋折衷ではない不思議な魅力を感じさせます。
外装で特徴的なのは、杉皮とこけら板の継ぎ目を割り竹で補強してあること。しかもそれが市松模様になっていて、機能だけでなく美しさにも気を配っていることがわかります。
内装では天井と壁もすべて杉皮張りですが、部屋によって市松張りや網代張り、矢羽張りなどが併用されていること。考えてみればヨーロッパでは、矢羽のように寄せ木で床を張るパーケット床がメジャーなので、こうした意匠は珍しくないのでしょう。
この建物の設計は、アントニン・レーモンド。この人は帝国ホテル新館を設計したフランク・ロイド・ライトのスタッフとして来日したのだそうです。
彼がどんな考えでこの別荘を手がけたのかはわかりませんが、洋風の建物を日本の杉材で仕上げていること、そして随所の仕事の細やかさを見ると、建築に当たっては日光周辺の職人の技をしっかり生かしていることがわかります。
この別荘を一般公開するに当たっては、建築当初の建物は一旦解体し、基礎を造り直したうえで、再度建て直したのだそうです。ただし、構造材やガラスなど使える材料はすべて再利用し、劣化が激しい外壁や内装をリフレッシュしました。もちろん外装や内装の意匠も改築前のままで、使われた材料の多くは地域材。そしてこの改築でも、建築当初と同じように伝統的な職人の技が生かされています。
古い建築に和洋折衷を見つけるのはそう珍しくはありませんが、モダンながら地域性を強く感じさせる建築は貴重です。木を生かした建物は別荘にふさわしいナチュラルで落ち着いた雰囲気があります。そして何より窓から眺める浮世離れした風景が、建築を引き立てています。