2015年12月24日木曜日

技と工夫のアーカイブ15 『木組みの空に雲を見つける家』 〜強く美しい階段〜


『木組みの空に雲を見つける家』  竣工:平成25年5月




『やわらかな光が注ぐ高床の家』に続き、2年連続で木造住宅コンクールで受賞を果たした住まいです。『木組みの空に雲を見つける家』という不思議なネーミングは、京都の町家建築で見られる梁組のイメージから名付けました。2階の天井は特に高く、梁組が二重、三重に重なる様子は、空に浮かぶ雲のように見えます。

伝統的な木組みの技をふんだんに取り入れた中でも特に見栄えするのが、タモ材で造ったスケルトン構造の階段です。同じ構造の階段は『白い空間に根曲り木のある家』でも作りましたが、あちらが桁を鉄骨で造ったのに対し、こちらでは桁も手すりも踏み板も全てタモ材で造りました。
課題は木造でスケルトンというシンプルな構造をどう実現するかです。
木造は耐久性の面で鉄骨より劣るので、強くするには補強を多くしなければなりませんが、強さだけを求めると見た目の美しさが損なわれます。この家では玄関を入ると階段が見えるプランにしたので見栄えも重要でした。

施主と棟梁とともにどんな造りにしようか検討を重ねましたが、最終的には棟梁の勘と技に委ねることに。そうして出来上がった階段は、単純な構造ながら20cmの太さの桁が力強さを感じさせ、タモ材の美しい木目が温もりを感じさせます。
荷物を届けに来た宅配業者が、思わず「かっこいい階段ですね」と口にするというほど印象的な見栄えは、木組みにこだわったこの家を象徴しています。


2015年12月16日水曜日

技と工夫のアーカイブ14 『コの字の家』 〜敷地のカタチを家の個性に〜

『コの字の家』 竣工:平成25年1月




若干変形ぎみの横長の敷地をどう生かすか。
考え抜いた結論は、平屋で、東西にご家族のプライベート空間とだんらんの空間を振り分け、真ん中に水まわりなどの共有スペースを配置するということ。
その結果、家のカタチは「コの字」になりました。

玄関を入って左に、ご夫婦の寝室と子供部屋。右にだんらんの間とダイニングキッチン。
両方の空間をつなぐ長い廊下は日当たりが良いので、大きな窓際にベンチを設けくつろぎを演出しました。

決して大きな建物ではありませんが、目的に合わせた間取り配置とすることで
数字以上の広さを感じさせてくれます。

特に部屋の壁の色を使う人の個性に合わせ変えたことで、バラエティ豊かな家になりました。黒の外壁色も個性的です。







2015年12月10日木曜日

技と工夫のアーカイブ13 『光風が海と陸をつなぐ家』 〜キャットタワー〜

『光風が海と陸をつなぐ家』 竣工:平成25年1月




猫が大好きな9人家族の住む家です。
設計ではそれぞれのプライバシー空間を確保するのが大変でした。
そんな中で家族が集う「だんらんの間」は、ゆとりを持たせることができましたが、空間のアクセントになっているのが、キャットタワーです。

ホームページで「スプーン1本からちょっとした棚板まで‥」とうたっているように、木で作れるものならなんでも工夫しますが、キャットタワーを作ったのはこれが初めて。
とはいえ、細工に手間がかかったというより、猫が喜びそうな節や捩れのある木を見つけるのに苦労しました。

見つけたのは地松の程よい太さのもの。これ以上太いと室内で邪魔になるし、細ければ猫が満足しません。
日当たりのいい窓辺に設けたので、日向ぼっこにも最高なはず。
猫がいない時には、不思議なオブジェのようにも見えます。



2015年12月1日火曜日

技と工夫のアーカイブ12  『やわらかな光が注ぐ高床の家』 〜秋保石の炉壁〜

『やわらかな光が注ぐ高床の家』 竣工:平成24年7月




薪をいっぱいに焚くと表面温度が200℃以上になる薪ストーブ。
暖房効率のためには設置場所を考えなければなりませんが、同時に安全性も確保しなければなりません。木造の家ではなおさらです。

薪ストーブの強烈な熱から家を守る炉台と炉壁には、凝灰岩が多く利用されます。栃木で産出される大谷石や青森の十和田石などが有名ですが、地元でも秋保で産出する秋保石があります。
耐久性と耐火性、耐水性に優れながら加工しやすいことから、かつては建築資材として多く使われたそうです。古い土蔵などで使われているので、私たちも気づかないうちに目にしているかもしれません。
しかし、戦後から高度成長時代になると建築材として利用されることも少なくなり、この住まいの炉壁のために手配した時点では、2軒の業者が切り出しているだけでした。
(現時点でその業者が切り出しているかどうかは確認できません)

全体に黄色味がかった色合いは石の硬質な印象を感じさせず、薪ストーブの優しい温かさによく似合っています。また堆積の時に混じった大小さまざまな石が美しい表情を見せるのも魅力です。




2015年11月25日水曜日

技と工夫のアーカイブ11 『やわらかな光が注ぐ高床の家』 〜越屋根のこと〜

『やわらかな光がそそぐ高床の家』 竣工:平成24年7月






震災後の混乱時に手掛けたこと、初めて応募した住宅コンクールで最優秀賞を受賞したことなどで印象深く、作り手としても大きな転機となった住まいです。
家のコンセプトからわかるように通常より基礎を高くしたのは、建て替え前の家が津波被害に遭ったので、二度と同じ思いをしないようにという願いからです。

『心和む灯りのある家』でスキップフロアについて紹介しましたが、この住まいでは1階の暖房熱をさらに効率良く2階に行き渡らせるために、2階のロフトの床をスノコ状にし、その上部には越屋根を設けました。
まるで家が帽子をかぶったような越屋根は外観にも特徴的ですが、これにより冬場の暖房効率は格段に良くなります。また夏は暑い空気がロフトのスノコ床と越屋根の窓を通って外に逃げるので、熱や湿気が室内にこもるのを防ぎます。コンクールでも空調機器に頼らない家であることが大きく評価されました。
ご家族によると、冬は1階の薪ストーブだけで暖房をまかない、夏は冷房に頼らず海からそよぐ風で快適過ごせるそうです。

また南面の大きな窓に面した3帖大のスキップフロアは、家族がともにくつろげるオープンスペースですが、冬場は洗濯物干しの場としても重宝するとか。薪ストーブのおかげですぐに乾くそうです。





2015年11月19日木曜日

技と工夫のアーカイブ10 『白い空間に根曲り木のある家』 〜木と鉄の相性〜

『白い空間に根曲り木のある家』 竣工:平成23年12月


私たちは木の家をつくるのでイコール和風建築の作り手と捉えられがちですが、決してそれにこだわるわけでなく、あくまで住む人がいつまでも清々しい気持ちで暮らせる家にしたいと考えています。和風か洋風かはあくまで仕上げの違いによることが多いのですが、使う素材によって家の印象が大きく変わることもあります。



2階建ての住まいの重要な鍵となる階段。多くの場合は木で造作しますが、この住まいでは踏み板はタモ材にしたものの桁は鉄骨で作りました。もちろんオリジナルです。
この白い鉄骨が木材だったら家全体の印象はぐっと落ち着くと思いますが、鉄骨でしかも白く塗装したことで重厚さや圧迫感がなく、明るく軽快な印象になり、漆喰壁との組み合わせで家を広く見せる効果も生んでいます。

また写真からわかるように木と鉄の組み合わせも似合っていて、木だけでつくるのとは違う魅力になっていると思います。塗装をしない無垢の木は、どんな素材とも相性が良く、和洋の概念に囚われない心地よい住まい空間を作ってくれます。







2015年11月12日木曜日

技と工夫のアーカイブ⑨ 『白い空間に根曲り木のある家』 〜引戸にする理由〜

『白い空間に根曲り木のある家』  竣工:平成23年12月





家の間仕切りといえば引戸かドアですが、私たちが建てる家では要望がない限り引戸にします。和室には引戸、洋室にはドアという選択は過去のもの。私たちはドアは使いません。理由は空間の有効利用と安全のためです。ドアはその大きさの分開閉に必要なスペースを空けなくてはならず、開けたままだと風などで閉まってしまうこともあります。その力が大きく、閉まるドアに手を挟んでしまったら大怪我の原因になってしまいます。
一方、引戸は風などで意図せず閉まることもなく、開閉のための空間も必要ありません。ただ一つ、開けた時に戸を収納する必要があるので、その分大工工事の手間がかかります。

私たちの家の建具はほとんどがオリジナルで既製品はありません。多くは軽くて見た目もきれいな節のない杉板で造りますが、オリジナルなら材料も選べるし、何より空間に合わせ自由な大きさにできるのが魅力です。
この家では空間を広く見せたいという狙いから、玄関ホールと居室の開口を広くしました。ドア一枚なら開口部は約90cmですが、この家では約3mもあり、1.5m幅の2枚の引戸で仕切られます。しかもそれは壁面に収納できるので、全開にするとほとんど間仕切りのない広々とした空間にすることができるのです。

安全性や空間の有効利用など、理想の住まいを追求すると既製品では対応できず、独自のものを造るしかなくなります。その分だけ造り手の作業は多くなりますが、手間ひまを惜しまない家づくりが快適な暮らしにつながると信じています。





2015年11月5日木曜日

技と工夫のアーカイブ⑧ 『白い空間に根曲り木のある家』 〜上棟直後を襲った大津波〜

『白い空間に根曲り木のある家』 竣工:平成23年12月





本来ならもっと早く竣工するはずでしたが、予定を大きく狂わせたのがあの大震災でした。平成23年3月10日。この住まいは震災の前日に上棟式を終えていました。土台に柱と梁が組み合わされ、屋根もかかり、家づくりの難関を突破し安心したところに大津波が襲いました。現場は北上川にほど近い場所だったので、津波は大人の身長を優に超えていました。
たまたま現場にいた棟梁は津波から逃れ屋根に登りましたが、津波は一向に収まらず逃げることもできなかったので、隣家の2階で一晩世話になったと言います。
幸い人的な被害もなく建物の構造に大きな損傷もなかったのですが、土台と柱は塩水に浸かったため、構造材として問題がないかを確認するのに大変な労力を要しました。さらに震災後しばらくは資材が入手できなかったことから竣工が大きく遅れました。
この先どうすればいいのか、どうすれば早く間違いのない家を建てられるのか。
遅々として家づくりが進まないことに、来る日も来る日も棟梁らとともに頭を悩ませたことを思い出します。こうした苦労の末に完成しただけに竣工の日は、オーナーご家族とともに手を取り合い涙しました。

時折、この住まいのお邪魔し、根曲り杉の梁やさまざまに工夫を凝らした箇所を目にするとあの時の苦労がまざまざと思い出されます。しかしご家族が快適に暮らす様子を見れば、あの苦労も決して無駄ではなかったと痛感します。





2015年10月28日水曜日

技と工夫のアーカイブ⑦ 『心和む灯りのある家』 〜スキップフロアの役割〜

『心和む灯りのある家』 竣工:平成22年12月




薪ストーブはどれくらい暖かいかー。
よくそんなことを聞かれますが、宮城県くらいの冬なら、よほど大きな家でなく設置する場所に配慮すれば一台で家中の暖房をほぼまかなえると言えます。
重要なのは暖房効率を考えた設計プランにすることで、なるべく家の中心に置くこと、そして2階建なら1階に設置することです。薪ストーブは蓄熱した熱を放熱するのでそれを家中に伝わりやすくすることが重要なのです。

この住まいの薪ストーブは家の中心にあります。そして暖房熱を2階にも行き渡らせるために採用したのがスキップフロアです。この住まいで初めて採り入れましたが、今では薪ストーブを1階に設置する場合の定番プランになりました。
2階の床の一部を二段にし、段差の立ち上がり部分を素通しにする。すると1階の暖かい空気が立ち上がり部分を通って2階にも伝わります。スキップフロアの真下にストーブがあれば2階は驚くほど暖かいのです。また薪ストーブの煙突は2階を貫通するので、その熱によっても2階は暖められます。


一般的にスキップフロアは床面積が小さい場合に空間を有効利用するために採用し、収納スペースが確保できるなどのメリットがありますが、暖房効率のための役割も果たすことができるのです。


2015年10月22日木曜日

技と工夫のアーカイブ⑥ 『心和む灯りのある家』 〜木の家らしい玄関〜

『心和む灯りのある家』 竣工:平成22年12月






私たちがつくる家は完全オーダーメイドなので決まったプランはありませんが、設備仕様ではいくつかの標準があります。そのひとつがオリジナルの玄関ドアで、この住まいから採用されました。

このドアの開発は、断熱性を確保しながら木の家にふさわしい玄関が欲しいという思いから生まれました。既製品のドアは性能には優れるものの木の家の玄関には似合わない。しかし木材だけでは現代の住まいにふさわしい断熱性は確保できない。そこで考えたのが断熱材を無垢材でサンドイッチする方法です。
開発は建具製作を一手に引き受けてくれる協和木工所さんとともに行いました。高い技術と常に良いものをつくりたいという志で、私たちの家づくりを支えてくれる最も信頼の置ける仲間です。おかげで木のやさしさと高い断熱性を持つオリジナルの玄関ドアが誕生しました。

またこの住まいの玄関には大きな石材を敷いていますが、地元の稲井石の石板は、木の家の玄関の表情をより豊かにしてくれています。






2015年10月14日水曜日

技と工夫のアーカイブ ⑤ 『風と光と土間のある家』 〜赤松の梁〜

『風と光と土間のある家』 竣工:平成21年11月






「創の家」同様、この家でも梁組が見えるよう小屋裏を表わしにしています。
開口部が大きいせいかより開放的な印象があります。またこの家に特徴的なのが梁と柱の材質です。

多くは宮城県産の杉材を用いますが、梁にはオーナーの要望で赤松を使用しました。杉との大きな違いは、硬さと粘り、さらにクセが強い点です。そんな松の特徴を私たちは“暴れる”と表現します。無垢材は乾燥後も調湿により収縮しますが、松は特に強く捻れる傾向が見られるのです。
そもそも硬い上にクセの強い松は建物の骨格にふさわしい木材です。しかしそれと組み合わせる柱にもそれに負けない強さが求められます。
杉には木目の美しさと加工しやすやがありますが、松のクセを受け止めるには役不足です。そこでこの家の柱に選んだのがヒノキです。
杉と同じく木目の美しさを持ちながら硬質なヒノキなら、松のクセも受け止められるだろうという判断です。人と同様に木材にも相性があるのです。またヒノキは独特の香りからわかるように殺菌・防虫効果があるのも特徴です。

竣工から間もなく6年。赤松は経年変化により赤みを強く変色していきますが、これから数十年と色味を変えながらも強さは変わることなく、ご家族の暮らしを支えていくことでしょう。





2015年10月8日木曜日

技と工夫のアーカイブ④ 『風と光と土間のある家』 〜真ん中の薪ストーブ〜


『風と光と土間のある家』  竣工:平成21年11月




開口部を多く設け、窓プランにこだわったことでコンセプト通り風と光に恵まれた家になりました。なかでもオーナーの願いを実現させたのがオリジナルの薪ストーブです。

薪ストーブは『創の家』でも設置しておりそのやさしいあたたかさは多くの人に紹介したいと考えていましたが、この家に薪ストーブを導入したことで、その後多くのお宅で薪ストーブを導入するきっかけになりました。

土間の真ん中にあって、家族みんながどの位置からでも炎が見えるようにしたい、という願いは既製品では実現できなかったので、長野県の業者にアイディアスケッチを持ち込み製作してもらいました。明るい日差しが降り注ぐ土間の真ん中に置かれた真っ黒のストーブは、家を支える柱のようであり、シンボルオブジェのようでもあります。

何しろ全くオリジナルのストーブを作るので、オーナーと業者と喧々諤々議論を交わし、ストーブの製作に5ヶ月。家の着工から竣工までは8ヶ月を要しました。

オーナーをはじめご家族とはお互いが納得いくまでとことん話し合い、時には激しく意見し合うこともありました。私たちの家づくりは、オーナーや住まうご家族と徹底的に話し合うとことを大前提としていますが、そうした時間を楽しむのも家づくりの醍醐味だと考えていますし、この家づくりでの経験がその考えの発端であり現在の礎になっています。





2015年9月28日月曜日

技と工夫のアーカイブ③ 『創の家』 〜壁の仕上げ〜


『創の家』 竣工:平成20年3月




壁仕上げの「大壁」と「真壁」の違いをご存知ですか?
簡単に言えば「大壁」は、構造材(柱)を壁材で覆い隠し表面に出ないようにします。一方「真壁」は構造材を見えるように仕上げます。
日本家屋ではほとんどが真壁仕上げでした。しかし住宅の工業製品化、とくに室内の壁仕上げで塗りよりクロス貼りが多く採用されるようになったことで大壁仕上げが多くなりました。真壁にするには手間と技を必要とするのです。もちろん純和風の家が少なくなったことも大きな理由です。

「創の家」では、外壁も真壁にしています。仕上げは石灰モルタル掻き落としと呼ぶもので、モルタルに骨材となる細かな石を混ぜ、一旦平面に塗った後、表面を掻き落として仕上げます。「岩肌仕上げ」とも言うように、表面の仕上がりは岩肌のようにザラザラします。
壁の骨材になる石には、白竜石、寒水石、珪砂などがありますが、粒状の石の形状や色味に違いがあり、それがそのまま壁の仕上がりに影響します。「創の家」では白竜石を混ぜていますが、透明で丸みを帯びているため、日差しの光を柔らかく反射する特徴があります。一方、珪砂は土色が濃いので、壁材にすると落ち着いた雰囲気になります。

現在、ハウスメーカーなどでは窯業系の壁材が多く用いられています。
施工が簡単で汚れにくいことや、タイル風や木材風など様々なテクスチャーに似たものが用意されているなどのメリットがありますが、無垢材など自然素材の家には似合わないような気がします。



2015年9月16日水曜日

技と工夫のアーカイブ ② 『創の家』 〜根曲がりの太鼓梁〜


『創の家』 竣工:平成20年3月





私たちがつくる家では、家を支える梁組を見えるようにすることが多いです。
とくに多く使うのが根曲がりの杉材などを太鼓仕上げにすること。「太鼓梁」と呼ぶそれは丸太を四角に製材するのではなく、一辺ないし二辺は丸太の形状を残し製材します。これにより構造材としての木の強さを生かすことができ、見た目にも木のたくましさややさしさを感じることができます。

根曲がり材とは根元が曲がった木材のことです。木目の美しさはまっすぐな木材より劣りますが、根曲がり材にはその分強さがあります。
まっすぐで木目が整った木はおもに陽当たりのいい南斜面で育ちますが、根曲がりの木は陽当たりの悪い北斜面で育ちます。悪条件で生まれた木は、懸命に陽射しを求めて育った結果根が曲がってしまいます。しかしそこには強さが備わるのです。
恵まれた環境ですくすく育つより、逆境をはね除け育った方が強い。木も人も同じなのですね。

さて創の家の小屋組は、根曲がりの太鼓梁の上にさらに二重三重の梁がかかります。それは構造の力強さを印象付けながら、天井高を実際より高く感じさせるという効果もあります。
この太鼓梁ですが、創の家の後に手がけた家ではより太い材料を使うようになり、さらに強く、たくましさを感じさせています。





2015年9月10日木曜日

技と工夫のアーカイブ① 「創の家」 〜むくり屋根と採光〜

『創の家』  竣工:平成20年3月




株式会社建築工房 創は、来年8月に創業10年を迎えます。
創業間もなく取り組んだのが自宅兼事務所の「創の家」の新築です。狭い敷地だけにいかに効率的な間取りにするかに腐心しました。南側は隣家が迫り、北向きの敷地であるために居室への採光をどう確保するかも課題でした。その一方で、自分たちが志す家づくりの個性を表し、会社の看板となるような家にしようという思いもありました。


むくり屋根と採光のこと
屋根はふくらむように湾曲していますが、これは数寄屋や茶室建築に見ることができる伝統的な構造です。同じ屋根形状の代表的な建物には京都の「桂離宮」があります。
この“むくり”とは対照的なのが“そり”で、寺社建築に見られるように反った形状になります。総二階で決して大きくない建物ですが、このむくり屋根により外観の個性が表せたと思っています。

「創の家」のもうひとつの課題は、北向きの居室にいかに採光を確保するかでしたが、それを解決したのが、屋根形状に沿うように設けた3連の高窓、さらに頭上から足元までの高さがある窓です。これにより日の光は射さないまでも2階居室の明るさを確保できました。

この2階北面の窓プランは採光を確保しただけでなく、自分たちがどんな家づくりを目指すかという個性を表現する役割も果たしました。それは床から天井までの窓ごしに、室内の伝統的な木組み構造が見えるためです。
通常なら外から2階居室を見上げても平面の天井が見えるだけですが、梁組が見える構造にしたことで、高い天井の開放的な室内に木のやさしさが映えること、そしてそれをつくる確かな技を持つことを通りを歩く人々にアピールできたのです。

木の良さ、魅力を生かす家づくりは私たちが最も得意とするところですが、「創の家」の木組み構造などについては次回紹介します。








2015年9月7日月曜日

創の家づくりの歩みを、技と工夫で振り返る


『完成見学会』などでお会いする方々に、“創さんらしい家だね”と言っていただくように、無垢の木や素材の良さを生かす創の住まいには、独特の雰囲気があるようです。

ご覧いただくどの建物にも木のやさしさや温かみ、そして清々しさを感じていただけるのは光栄なことですが、見た目と全体の雰囲気は似ていても、完全オーダーメイドで建てる創の住まいにはひとつとして同じ建物はありません。
例えば、換気と熱効率のために有効な「越屋根」は数件の建物で採用していますが、細かな工夫や仕上げはそれぞれ違うのです。

創では、住まう人の快適な暮らしのために設計プランや技に新しい工夫やアイディアをどんどん取り入れ、成果があれば次の住まいづくりに生かしています。または課題が見つかればつねに改善を重ねています。
まさに実績と工夫を生かす家づくり。創では最新の家が最善の家なのです。

というわけで、ホームページの「ギャラリー」で紹介する住まいには、それぞれその時々の新しい工夫やアイディア、技が盛り込まれており、当然、その家でしか見られない取り組みがあります。
このブログでは、写真だけではわからないそんな工夫や技をシリーズで紹介しながら創の家づくりの歩みを振り返り、“創らしい”家の魅力を考えてみます。

いわば清々しい家のためのチャレンジをまとめたアーカイブ集です。