2015年11月5日木曜日

技と工夫のアーカイブ⑧ 『白い空間に根曲り木のある家』 〜上棟直後を襲った大津波〜

『白い空間に根曲り木のある家』 竣工:平成23年12月





本来ならもっと早く竣工するはずでしたが、予定を大きく狂わせたのがあの大震災でした。平成23年3月10日。この住まいは震災の前日に上棟式を終えていました。土台に柱と梁が組み合わされ、屋根もかかり、家づくりの難関を突破し安心したところに大津波が襲いました。現場は北上川にほど近い場所だったので、津波は大人の身長を優に超えていました。
たまたま現場にいた棟梁は津波から逃れ屋根に登りましたが、津波は一向に収まらず逃げることもできなかったので、隣家の2階で一晩世話になったと言います。
幸い人的な被害もなく建物の構造に大きな損傷もなかったのですが、土台と柱は塩水に浸かったため、構造材として問題がないかを確認するのに大変な労力を要しました。さらに震災後しばらくは資材が入手できなかったことから竣工が大きく遅れました。
この先どうすればいいのか、どうすれば早く間違いのない家を建てられるのか。
遅々として家づくりが進まないことに、来る日も来る日も棟梁らとともに頭を悩ませたことを思い出します。こうした苦労の末に完成しただけに竣工の日は、オーナーご家族とともに手を取り合い涙しました。

時折、この住まいのお邪魔し、根曲り杉の梁やさまざまに工夫を凝らした箇所を目にするとあの時の苦労がまざまざと思い出されます。しかしご家族が快適に暮らす様子を見れば、あの苦労も決して無駄ではなかったと痛感します。





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