2013年4月18日木曜日

「からかみ」に会いに京都へ 〈その3〉




その夜、2軒目の店でグラスを傾けながら数寄者3人は、
『からかみ』の美について話しました。
酒量もいっていたので(スミマセン!昼間から呑んでました)
大層な話しはしてませんが、3人は共通する感想を持っていることがわかりました。

そして、自分たちが家づくりで実現しようとしていることが間違いではなく、
『からかみ』を知ったことで、むしろ勇気づけられたとさえ感じていたのです。


〈丸二〉さんのギャラリーにて


『からかみ』には、豊富な文様と紙で多種多様な楽しみがあるように、その魅力は一口には言い切れません。
ちょっと見聞きしただけの我々の意見など、参考にもならないでしょう。
ただ言えるとするなら、
『からかみ』とは、時のうつろいを楽しむ美のような気がします。


『からかみ』を象徴する材料に雲母(きら)がありますが、これを絵具に文様を刷ると、
それは光量や光の角度で輝きを変えます。
紙と刷色を淡い同色にした場合、日中の正面からの光では文様はあまり目立ちませんが、
月明かりなどでは雲母の文様が浮き上がり輝くのです。
つまり、雲母刷りの『からかみ』は時間により違った美しさを見せます。

我々が感激した『栖鳳桐』の純銀箔押は、一日の時間変化に加え、硫化反応によるさらに長い年月での変化を楽しむものです。
いずれにせよ『からかみ』の美に、一定性はなく、永続性もないのです。



「花鳥造土」の文様


「木組みの家も同じだっちゃね」
どの酔っぱらいが言ったかは定かではありませんが、3人は同じ思いでした。

木の家もまた時の移ろいを楽しみながら、手を加え育てていく

楽しみがあるからです。



平安の世から受継がれた
“うつろいの美”が、生きる家をどう育てていくのか。
住まい手になる私には、センスと覚悟が問われているのだと思います。


(おわり)


「波につぼつぼ」に櫂の引手。こんな組み合わせを楽しめるのも「からかみ」の襖ならでは



翌日に行った大原の風景。「三千院」はもうすぐ


「三千院」往生極楽院













2013年4月16日火曜日

「からかみ」に会いに京都へ 〈その2〉


大阪空港から電車を乗り継ぎ、河原町駅に着いたのは11時過ぎ。

祇園花見小路の景観に「うほぉー!」と声を上げ、
ミシュラン1つ星の名店〈祇をん う〉で、名物の「う桶」と「だしまき」を楽しむと、
いよいよ『からかみ』と対面する時がやってきました。



祇園花見小路の町並み




〈祇をん う〉の名物「う桶」。これで3人前です














旅先でなぜか採寸する小山くん
















〈丸二〉さんの2階ギャラリーの扉を開けると、3人から歓声が上がります。
40がらみのオヤジ3人ではほぼダミ声ですが、思わず声が出たことからその感動をお察しください。
襖一幅を見るたび異様なテンションの私たちを相手に、丁寧に応じてくれた〈丸二〉の皆さんにはただ感謝するばかりです。

ギャラリーではじめに目に飛び込んだのは、桃色の紙に『花兎』(はなうさぎ)という文様が刷られた一幅。



これがパッと目をひいた『花兎』
〈丸二〉さんのギャラリーでは、襖に仕立てられた『からかみ』が堪能できます。


決してピンクじゃありません。さらに「地引」というつや消し加工が施してあるので、派手さは感じずどこか儚げで上品さがあり、花と兎の意匠が似合います。


応対してくれた〈丸二〉の高畠さんが襖一幅ごとの文様を説明してくれるなか、3人が同時に「おおっ!」と声を上げたのが、栖鳳桐』(せいほうぎり)という文様が刷られた一幅です。


右上と左下の文様が斑になっているのがわかりますか?



目に留ったのは、文様がただならぬ雰囲気を見せていた点で、よく見ると桐文様ひとつひとつが斑に変色しています。一幅の襖には桐文様がいくつか置かれますが、見方によってはひとつひとつが別の文様のようにさえ見えます。

斑な変色に醜くさはなく、文様の中に別の文様を描くようにも見えます。
銀が黒く変色した部分や、銀と黒の境には赤や青、緑色もあります。
なぜそんな風に変色するのか。。。それは、桐文様が純銀箔によるからなのです。


これが見本帳の栖鳳桐』。硫化以前は銀ピカです。


つまり変色したように見えたのは、銀が硫化したことで生じたものです。
その襖は仕立ててから2年ほど経つたらしいのですが、その間にギャラリーの空気中の化合物に反応し、文様のなかに文様を描き出したのです。


この理屈に納得できたとき、数寄者3人は声一つ出せませんでした。          
       
         襖に純銀箔押し!? 

それだけでも驚きですが、銀の化学反応を見越して文様の変化を楽しむことが考えられているのです。
しかも銀の硫化反応は一定ではなく、その襖が置かれる場所でさまざまに変化します。


   「つまり、この襖紙でうちだけの“いぶし銀”を育てる・・・つーこと?」

『栖鳳桐』の襖の前に跪き、しばらく沈黙していた私は、誰に聞くともなくつぶやきました。
「そうですねぇ」と、こちらの驚きをよそに穏やかな笑みで返事をした高畠さんの表情は、いまも忘れられません。


結局、『栖鳳桐のからかみ』は、新居の玄関ホールに面した襖に誂えることで満場一致。

施主も設計者も職人も、一幅の襖に関わるみんなが最高のものに出会えた喜びに満足していました。

その後、他の襖に使う『からかみ』選びに迷い、その場ですべて決定とはいきませんでしたが、迷うこともまた楽し。


そうして家づくりはつづくのでした。



〈その3〉へつづく



丸二で出会った文様1 「鉄線」

丸二で出会った文様2 「東大寺型」
丸二で出会った文様3 「天平大雲」


丸二で出会った文様4 「つぼつぼ」




2013年4月13日土曜日

「からかみ」に会いに京都へ 〈その1〉




「小山くん、『からかみ』って知ってっか?」
京都への旅は、そんな問いかけから始まりました。

負けず嫌いの彼はわからないとは言わず、のらりくらりかわそうとします。
ならばと私(あおぞら企画室室長)は、勝手に話すフリをして『からかみ』について教えてあげました。


それは京都にあること。(江戸からかみもあります)
伝統的な文様を彫った版木に雲母などを混ぜた絵具をのせ、和紙に刷ったものであること。
(版画を思い浮かべればわかりやすいです)
桂離宮、京都御所、二条城の襖に使われていること。
和風建築に似合うのはもちろん、文様や刷る紙の色合わせが自在に楽しめ、
デザイン的にいまどき感もあること。などを話しました。


そんな、桂離宮にもある襖紙が新居にも欲しい、と企んだ私は、
京都の老舗〈丸二〉さんから現物の『からかみ』が和綴された見本帳を取り寄せました。そして、
花鳥風月が反映された様々な文様を眺めながら、新居の妄想をふくらませていたのです。



〈丸二〉さんからお借りした『からかみ』の見本帳



さて、設計者にも打ち明けたことで、妄想は実現に向け動き出しました。次は新居のどこにどの『からかみ』を使うかです。建具屋の上杉さんを加え、3人で見本帳を囲みながらしばし相談。

上杉さんに土下座・・・じゃなくて図面を確認する小山くん

「和室の入口はどれがいいべね?」
「・・・う〜む」
「こいつは2階に良いんでね?」
「これも良くね?」
「・・・」
「う〜〜〜む」









見るものどれも美しく、1冊の見本帳に約50種の文様見本があり紙も色も豊富で、それが手元に2冊。とても選びきれずにいると、上杉さんがさらりと言いました。



見本帳にはこんなかわいいのや・・・


「行ってみるしかねぇんでね」
「いいっスね!」

と返したのは小山くんです。
しかし、この場合の“いいっスね”は、同意ではなく
願望です。
(数枚の襖紙を選ぶために京都に行けたら・・・いいね)とは、私も同じ気持ちだけど、この忙しいさなかそんな道楽は許されないのです。



しかし、ものづくりに並々ならぬ執念を見せる二人は、
(そんなのダメだ)と言いながら、
「いい勉強になるな」とニヤニヤする始末。



きらびやかなのや・・・
「オレも包丁欲しかったんだよねぇ。あ、箒もだ!」

と、私も彼らの悪企みに加担しそうです。
(言い出しっぺは、私ですが)

こうして相談は、いつしか京都旅の密談になっていました。「行きたい!」となったら、もう止まりません。



そんなわけで数寄者3人は、1泊2日の京都旅に出かけたのです。



(その2へつづく)





ユニークな文様も


You Tubeに〈丸二〉さんの動画があります。
からかみの手技のスゴさがわかります!

           京からかみ 丸二