2016年3月24日木曜日

技と工夫のアーカイブ25 『新しさが薫る家』 〜照明のこと〜

『新しさが薫る家』 竣工:平成27年11月





創の住まいでは間接照明を多く使います。ペンダントライトを使うのはだんらんの間や和室くらいで、それ以外の直接照明はダウンライト。残りは間接照明です。
さらに直接照明でも白昼色の蛍光灯はほとんど使わず電球色を使います。最近は電力消費量が少なく長寿命なLEDのオーダーが多くなっていますが、それでも電球色を使います。
理由はそれが好みだからなのですが、木の家の落ち着いた趣には温かみのある明かりが似合うと思うからです。

この家では引き込み障子が備わる掃き出し窓の上部に間接照明を仕込みました。照明自体は障子枠に隠れるので点灯しなければ照明があることはわかりませんが、夜にはぼんやりした明かりが白漆喰の壁と木の美しさを際立たせ、天井近くを照らすことから空間の広がりを強調します。

聞いた話では、快適な睡眠のためには昼夜とも同じ光量の環境で過ごすより、就寝時間に近づくに従って光量を落とすのが理想なのだそうです。
夜の室内にも昼と同じ明るさを求め調光するより、夜には夜の明るさを楽しむ方が心と体には健康的なのですね。



2016年3月17日木曜日

技と工夫のアーカイブ24 『風流感じる木組みの家』 〜熱循環のために〜


『風流感じる木組みの家』 竣工:平成26年11月



無垢材が長持ちする環境にするため、そして空調効率を高めるため、風通しを良くする工夫をいろいろ試してきました。
夏の暑い空気を外へ逃がす越屋根、1階の暖房熱を2階にも届けるため立ち上がり部分を開放にしたスキップフロア、欄間上部の開放、スノコ床、ルーバー壁
そしてこの家で取り入れたのは『油煙抜き』です。

1階の薪ストーブはこれ一台で家中の暖房をまかなえるほどの能力を持ちますが、スキップフロアがあり越屋根に面する2階廊下と寝室は仕切られるため、そのままではせっかくの暖房熱は寝室には届きません。そこで欄間くらいの高さに障子付きの油煙抜きを設けました。

『油煙出し』とも呼ぶそれは、室内に囲炉裏のある家で煙を外に出すための穴のことで、茅葺屋根に多く見られました。また、昔のろうそくは煙が多く出たのでそれを逃がす役目もあったそうです。
この家ではこうした特性を応用し、暖房熱を室内に呼び込むためのものとしました。

伝統建築の意匠を参考に、現代の住まいに役立つものにしていく。
そんな工夫をこれからも続けていきたいと思っています。


2016年3月11日金曜日

技と工夫のアーカイブ23 『風流感じる木組みの家』 〜妻飾り〜

 『風流感じる木組みの家』 竣工:平成26年11月






ここ数年応募している住宅コンクールで、4年連続受賞となる優秀賞を受賞した住まいです。つい先日、その授賞式がありました。

目的のない飾りは好きではありません。なので私たちが建てる住まいでは、外も内にも意味のない装飾は施しません。そんな中で唯一と言ってもいい装飾が妻飾りです。屋根の妻部分に掛けられるそれは、伝統建築の蟇股 (かえるまた) や豕叉首 (いのこさす)が原型で、かつては架構の意味がありましたが、現在の住宅建築では機能的な意味はほとんどなくなりました。
この住まいの妻飾りは、二つの円をモチーフにしました。二つの円弧がぐんぐん伸びてそれが大きな円になるように、家族の夢が育ち、つながり、幸せがいつまでも巡るようにと
願いを込めました。


角材をルーバー状に組み装飾性は極力排除したものの、和の住まいのいいアクセントになり、どっしりとした風格も増したのではないかと思います。また妻飾りを掛ける機会があっても、主張せず良い印象を助ける飾りにしたいと思います。






ちなみに、webで「妻飾り」と検索すると、アルファベット文字や鳥や花をモチーフにしたものがいっぱい出てきました。南欧風の家に多いようですが、私たちの住まいには到底似合いそうもありません。

2016年3月2日水曜日

創が目指すべきこと


この前の週末、創では久しぶりに完成物件の見学会を開催しました。
来場者数もほぼ目標を達成でき、会の関係者としてひと安心です。
そして今回は、数字以上に訪れた方々と中身の濃い対話ができ、充実した機会になったと思っています。

過去の見学会でも、無垢の木と自然素材の家に興味を持つ多くの方々にご来場いただきましたが、これまでのアピールが実を結んだのか、あるいはこうした家づくりへの関心が高まっているせいか、お客さんの質問や反応にはこれまで以上に緊張感があるように感じました。わかりやすく言うと、家づくりのあれこれに詳しい人や真剣に取り組む人が多いということ。木の家や自然素材についても明らかに理解が進んでいます。つまり、それと応対するつくり手は、ますますうかうかしていられなくなっているのです。
「被災地は住宅建築バブル」という人がいたら、それは実態を知らない者の戯言だと断言できます。お客さんは明らかに賢くなっているし、特に被災した人々は、無責任な狂騒に踊らされない知恵や覚悟も持っています。




来場したお客さんの中に、こんな話をしてくれた人がいました。
「ハウスメーカーの家はピンと来ない。かといって地元の工務店も違う」
その方はいくつものハウスメーカーを回り比較検討したが、希望に合う家が見つからなかったそうです。ひと言で言うなら「自分たちには不必要なものが多すぎると感じた」とか。挙句には、見積もりをお願いしたら伝えていた予算をはるかに超える額を提示されたそうです。

その一方で、地元の工務店も当たったそうです。しかし今度は欲しいものがない。こんな家がいいと写真を見せて説明しても反応が鈍い。
「地元の工務店は安心だけど、いまどきじゃない」。そう感じたそうです。

その方は創の家を見て、なるほど、うんうん、と連発していました。
創の見学会も本格的な木組みの家も初めてなので、どこがどういいか具体的な点を聞くまではできませんでしたが、他所に不満を感じていたこころに創の家づくりは確実に響いていたようです。




この方が、ハウスメーカーと地元の工務店に感じた過剰と不足。
今考えるとそれは特殊な例ではなく、現在の住宅建築業界に言えることではないかと思います。
最大公約数で家づくりをするハウスメーカーでは、すべてのニーズに応えられない。方や地元の工務店は技術面に注力し、それぞれのいまどきの暮らし方に見合った提案力に乏しい。
言ってしまえば現在の家づくりは、『帯に短し襷に長し』なのかもしれません。
もしそうだとしたら求められるのは、それぞれの帯にも襷にもなる技術やアイディア、そして提案力なのでしょう。

ハウスメーカーのアイディアと開発力を見習いつつ、培った技術と対応力でお客さんに安心と新しい暮らしを届ける。
言い古されているようでいながら、そこにはやはり取り組むべき普遍的なテーマがあるような気がします。