『静かな光が差し込む家』 竣工:平成28年5月
南に大きな建物が隣接しています。そのため開放感のある東側の開口を大きくしました。
とはいえ日が回ると採光は弱くなります。そこで考えたのが1階だんらんの間の上に2階は上げず、部屋の中央に天窓を設けること。これにより「だんらんの間」では、南面からの日差しは望めなくても真上から明るい日差しが差し込みます。
もう一つの工夫は、だんらんの間とは独立したダイニングにも明るい日差しを呼び込むこと。ここには2階が上がりますが、階段ホールと連続した吹き抜け、さらに2階廊下の一部をスノコ床にしたことで日差しと風通しを良くしました。
高齢のおばあさんが暮らすこの家では、寝室のほかにくつろげる畳の間が欲しいと要望がありました。そこでだんらんの間に連続して3畳大の畳の間を設けました。
これによりだんらんの間、畳の間、そしてダイニングは適度に仕切られるようになり、空間構成にメリハリが生まれました。
間仕切りをなくしフラットな空間にすれば広々しますが、落ち着きのある空間にするなら適度な仕切りを設けた方が効果があります。
『静かな光が差し込む家』 竣工:平成28年5月
家づくりは、そこに住む人の中で最もハンデのある人の立場で考えなければなりません。高齢で足腰に不安があるならその人が生活しやすい間取りにする。それに倣えばこの家の主役は90代になるおばあさんで、おばあさんが暮らしやすいように動線と間取りを考えました。
おばあさんの寝室はこの家で最も日当たりの良い南東に向くようにしました。そこは玄関を入って最初の居室です。ですから外とのアクセスが便利。また家族が過ごす「だんらんの間」も隣なので行き来しやすい。おまけに「だんらんの間」とは広々としたウッドデッキを介してもつながっているので開放的かつ動線も機能的にしています。
トイレ、お風呂は玄関を挟んで1階の北側にありますが、おばあさんの寝室から最も近く安心です。そしてキッチンは廊下を挟んで西側に、その南隣にダイニングを設けました。
間取り図があればわかりやすいのですが、この家の動線はおばあさんの寝室を軸に、「だんらんの間」とダイニング、キッチンを周回できるようになっているのです。足腰に不安があるのでできるだけ短い距離で必要な場所へ行けるようにしよう。そうした考えで間取りを考えたことで機能的な家になりました。
『自分たちの風景のある家』 竣工:平成28年4月
石巻では復興工事が盛んに進められています。沿岸地域でかさ上げ工事が終わったら、風景はどんな風に変わるのでしょうか。現在、かさ上げ工事と同時進行で住宅の新築工事も目立っていますが、何しろどんな街並みになるかわからないので、都市計画をしっかり読み解き、完成後の風景を想像しながら家づくりを進めなければなりません。
この住まいでは敷地の目の前にかさ上げ道路が通る計画になっているので、普通に通りに開けた家構えにすると、通りから家が見下ろされるようになってしまいます。
通りからの視線を遮り、見下ろされる不快感をなくすこと。そして明るい日差しを確保すること。そんな課題を解決するために生まれたのが中庭を設けることでした。これなら通りからの視線を感じずに済み、自分たちだけの風景を楽しめるというわけです。
中庭のデッキは室内と床面の高さを揃えたので、中庭も室内と同じように使えます。そして一歩中庭に出て見上げれば、家族だけが楽しめる空があるというのは実に贅沢。真ん中に植えたシンボルツリーもさらにゆとりを感じさせます。
私どもが手がけた家では初めての中庭のある家。次にまた似たような敷地条件の家を手がけることがあったら、この経験を応用してそこで最善の家を建てたいと思います。