2015年10月28日水曜日

技と工夫のアーカイブ⑦ 『心和む灯りのある家』 〜スキップフロアの役割〜

『心和む灯りのある家』 竣工:平成22年12月




薪ストーブはどれくらい暖かいかー。
よくそんなことを聞かれますが、宮城県くらいの冬なら、よほど大きな家でなく設置する場所に配慮すれば一台で家中の暖房をほぼまかなえると言えます。
重要なのは暖房効率を考えた設計プランにすることで、なるべく家の中心に置くこと、そして2階建なら1階に設置することです。薪ストーブは蓄熱した熱を放熱するのでそれを家中に伝わりやすくすることが重要なのです。

この住まいの薪ストーブは家の中心にあります。そして暖房熱を2階にも行き渡らせるために採用したのがスキップフロアです。この住まいで初めて採り入れましたが、今では薪ストーブを1階に設置する場合の定番プランになりました。
2階の床の一部を二段にし、段差の立ち上がり部分を素通しにする。すると1階の暖かい空気が立ち上がり部分を通って2階にも伝わります。スキップフロアの真下にストーブがあれば2階は驚くほど暖かいのです。また薪ストーブの煙突は2階を貫通するので、その熱によっても2階は暖められます。


一般的にスキップフロアは床面積が小さい場合に空間を有効利用するために採用し、収納スペースが確保できるなどのメリットがありますが、暖房効率のための役割も果たすことができるのです。


2015年10月22日木曜日

技と工夫のアーカイブ⑥ 『心和む灯りのある家』 〜木の家らしい玄関〜

『心和む灯りのある家』 竣工:平成22年12月






私たちがつくる家は完全オーダーメイドなので決まったプランはありませんが、設備仕様ではいくつかの標準があります。そのひとつがオリジナルの玄関ドアで、この住まいから採用されました。

このドアの開発は、断熱性を確保しながら木の家にふさわしい玄関が欲しいという思いから生まれました。既製品のドアは性能には優れるものの木の家の玄関には似合わない。しかし木材だけでは現代の住まいにふさわしい断熱性は確保できない。そこで考えたのが断熱材を無垢材でサンドイッチする方法です。
開発は建具製作を一手に引き受けてくれる協和木工所さんとともに行いました。高い技術と常に良いものをつくりたいという志で、私たちの家づくりを支えてくれる最も信頼の置ける仲間です。おかげで木のやさしさと高い断熱性を持つオリジナルの玄関ドアが誕生しました。

またこの住まいの玄関には大きな石材を敷いていますが、地元の稲井石の石板は、木の家の玄関の表情をより豊かにしてくれています。






2015年10月14日水曜日

技と工夫のアーカイブ ⑤ 『風と光と土間のある家』 〜赤松の梁〜

『風と光と土間のある家』 竣工:平成21年11月






「創の家」同様、この家でも梁組が見えるよう小屋裏を表わしにしています。
開口部が大きいせいかより開放的な印象があります。またこの家に特徴的なのが梁と柱の材質です。

多くは宮城県産の杉材を用いますが、梁にはオーナーの要望で赤松を使用しました。杉との大きな違いは、硬さと粘り、さらにクセが強い点です。そんな松の特徴を私たちは“暴れる”と表現します。無垢材は乾燥後も調湿により収縮しますが、松は特に強く捻れる傾向が見られるのです。
そもそも硬い上にクセの強い松は建物の骨格にふさわしい木材です。しかしそれと組み合わせる柱にもそれに負けない強さが求められます。
杉には木目の美しさと加工しやすやがありますが、松のクセを受け止めるには役不足です。そこでこの家の柱に選んだのがヒノキです。
杉と同じく木目の美しさを持ちながら硬質なヒノキなら、松のクセも受け止められるだろうという判断です。人と同様に木材にも相性があるのです。またヒノキは独特の香りからわかるように殺菌・防虫効果があるのも特徴です。

竣工から間もなく6年。赤松は経年変化により赤みを強く変色していきますが、これから数十年と色味を変えながらも強さは変わることなく、ご家族の暮らしを支えていくことでしょう。





2015年10月8日木曜日

技と工夫のアーカイブ④ 『風と光と土間のある家』 〜真ん中の薪ストーブ〜


『風と光と土間のある家』  竣工:平成21年11月




開口部を多く設け、窓プランにこだわったことでコンセプト通り風と光に恵まれた家になりました。なかでもオーナーの願いを実現させたのがオリジナルの薪ストーブです。

薪ストーブは『創の家』でも設置しておりそのやさしいあたたかさは多くの人に紹介したいと考えていましたが、この家に薪ストーブを導入したことで、その後多くのお宅で薪ストーブを導入するきっかけになりました。

土間の真ん中にあって、家族みんながどの位置からでも炎が見えるようにしたい、という願いは既製品では実現できなかったので、長野県の業者にアイディアスケッチを持ち込み製作してもらいました。明るい日差しが降り注ぐ土間の真ん中に置かれた真っ黒のストーブは、家を支える柱のようであり、シンボルオブジェのようでもあります。

何しろ全くオリジナルのストーブを作るので、オーナーと業者と喧々諤々議論を交わし、ストーブの製作に5ヶ月。家の着工から竣工までは8ヶ月を要しました。

オーナーをはじめご家族とはお互いが納得いくまでとことん話し合い、時には激しく意見し合うこともありました。私たちの家づくりは、オーナーや住まうご家族と徹底的に話し合うとことを大前提としていますが、そうした時間を楽しむのも家づくりの醍醐味だと考えていますし、この家づくりでの経験がその考えの発端であり現在の礎になっています。