『コの字の家』 竣工:平成25年1月
若干変形ぎみの横長の敷地をどう生かすか。
考え抜いた結論は、平屋で、東西にご家族のプライベート空間とだんらんの空間を振り分け、真ん中に水まわりなどの共有スペースを配置するということ。
その結果、家のカタチは「コの字」になりました。
玄関を入って左に、ご夫婦の寝室と子供部屋。右にだんらんの間とダイニングキッチン。
両方の空間をつなぐ長い廊下は日当たりが良いので、大きな窓際にベンチを設けくつろぎを演出しました。
決して大きな建物ではありませんが、目的に合わせた間取り配置とすることで
数字以上の広さを感じさせてくれます。
特に部屋の壁の色を使う人の個性に合わせ変えたことで、バラエティ豊かな家になりました。黒の外壁色も個性的です。
『光風が海と陸をつなぐ家』 竣工:平成25年1月
猫が大好きな9人家族の住む家です。
設計ではそれぞれのプライバシー空間を確保するのが大変でした。
そんな中で家族が集う「だんらんの間」は、ゆとりを持たせることができましたが、空間のアクセントになっているのが、キャットタワーです。
ホームページで「スプーン1本からちょっとした棚板まで‥」とうたっているように、木で作れるものならなんでも工夫しますが、キャットタワーを作ったのはこれが初めて。
とはいえ、細工に手間がかかったというより、猫が喜びそうな節や捩れのある木を見つけるのに苦労しました。
見つけたのは地松の程よい太さのもの。これ以上太いと室内で邪魔になるし、細ければ猫が満足しません。
日当たりのいい窓辺に設けたので、日向ぼっこにも最高なはず。
猫がいない時には、不思議なオブジェのようにも見えます。
『やわらかな光が注ぐ高床の家』 竣工:平成24年7月
薪をいっぱいに焚くと表面温度が200℃以上になる薪ストーブ。
暖房効率のためには設置場所を考えなければなりませんが、同時に安全性も確保しなければなりません。木造の家ではなおさらです。
薪ストーブの強烈な熱から家を守る炉台と炉壁には、凝灰岩が多く利用されます。栃木で産出される大谷石や青森の十和田石などが有名ですが、地元でも秋保で産出する秋保石があります。
耐久性と耐火性、耐水性に優れながら加工しやすいことから、かつては建築資材として多く使われたそうです。古い土蔵などで使われているので、私たちも気づかないうちに目にしているかもしれません。
しかし、戦後から高度成長時代になると建築材として利用されることも少なくなり、この住まいの炉壁のために手配した時点では、2軒の業者が切り出しているだけでした。
(現時点でその業者が切り出しているかどうかは確認できません)
全体に黄色味がかった色合いは石の硬質な印象を感じさせず、薪ストーブの優しい温かさによく似合っています。また堆積の時に混じった大小さまざまな石が美しい表情を見せるのも魅力です。
『やわらかな光がそそぐ高床の家』 竣工:平成24年7月
震災後の混乱時に手掛けたこと、初めて応募した住宅コンクールで最優秀賞を受賞したことなどで印象深く、作り手としても大きな転機となった住まいです。
家のコンセプトからわかるように通常より基礎を高くしたのは、建て替え前の家が津波被害に遭ったので、二度と同じ思いをしないようにという願いからです。
『心和む灯りのある家』でスキップフロアについて紹介しましたが、この住まいでは1階の暖房熱をさらに効率良く2階に行き渡らせるために、2階のロフトの床をスノコ状にし、その上部には越屋根を設けました。
まるで家が帽子をかぶったような越屋根は外観にも特徴的ですが、これにより冬場の暖房効率は格段に良くなります。また夏は暑い空気がロフトのスノコ床と越屋根の窓を通って外に逃げるので、熱や湿気が室内にこもるのを防ぎます。コンクールでも空調機器に頼らない家であることが大きく評価されました。
ご家族によると、冬は1階の薪ストーブだけで暖房をまかない、夏は冷房に頼らず海からそよぐ風で快適過ごせるそうです。
また南面の大きな窓に面した3帖大のスキップフロアは、家族がともにくつろげるオープンスペースですが、冬場は洗濯物干しの場としても重宝するとか。薪ストーブのおかげですぐに乾くそうです。
『白い空間に根曲り木のある家』 竣工:平成23年12月
私たちは木の家をつくるのでイコール和風建築の作り手と捉えられがちですが、決してそれにこだわるわけでなく、あくまで住む人がいつまでも清々しい気持ちで暮らせる家にしたいと考えています。和風か洋風かはあくまで仕上げの違いによることが多いのですが、使う素材によって家の印象が大きく変わることもあります。
2階建ての住まいの重要な鍵となる階段。多くの場合は木で造作しますが、この住まいでは踏み板はタモ材にしたものの桁は鉄骨で作りました。もちろんオリジナルです。
この白い鉄骨が木材だったら家全体の印象はぐっと落ち着くと思いますが、鉄骨でしかも白く塗装したことで重厚さや圧迫感がなく、明るく軽快な印象になり、漆喰壁との組み合わせで家を広く見せる効果も生んでいます。
また写真からわかるように木と鉄の組み合わせも似合っていて、木だけでつくるのとは違う魅力になっていると思います。塗装をしない無垢の木は、どんな素材とも相性が良く、和洋の概念に囚われない心地よい住まい空間を作ってくれます。
『白い空間に根曲り木のある家』 竣工:平成23年12月
家の間仕切りといえば引戸かドアですが、私たちが建てる家では要望がない限り引戸にします。和室には引戸、洋室にはドアという選択は過去のもの。私たちはドアは使いません。理由は空間の有効利用と安全のためです。ドアはその大きさの分開閉に必要なスペースを空けなくてはならず、開けたままだと風などで閉まってしまうこともあります。その力が大きく、閉まるドアに手を挟んでしまったら大怪我の原因になってしまいます。
一方、引戸は風などで意図せず閉まることもなく、開閉のための空間も必要ありません。ただ一つ、開けた時に戸を収納する必要があるので、その分大工工事の手間がかかります。
私たちの家の建具はほとんどがオリジナルで既製品はありません。多くは軽くて見た目もきれいな節のない杉板で造りますが、オリジナルなら材料も選べるし、何より空間に合わせ自由な大きさにできるのが魅力です。
この家では空間を広く見せたいという狙いから、玄関ホールと居室の開口を広くしました。ドア一枚なら開口部は約90cmですが、この家では約3mもあり、1.5m幅の2枚の引戸で仕切られます。しかもそれは壁面に収納できるので、全開にするとほとんど間仕切りのない広々とした空間にすることができるのです。
安全性や空間の有効利用など、理想の住まいを追求すると既製品では対応できず、独自のものを造るしかなくなります。その分だけ造り手の作業は多くなりますが、手間ひまを惜しまない家づくりが快適な暮らしにつながると信じています。
『白い空間に根曲り木のある家』 竣工:平成23年12月
本来ならもっと早く竣工するはずでしたが、予定を大きく狂わせたのがあの大震災でした。平成23年3月10日。この住まいは震災の前日に上棟式を終えていました。土台に柱と梁が組み合わされ、屋根もかかり、家づくりの難関を突破し安心したところに大津波が襲いました。現場は北上川にほど近い場所だったので、津波は大人の身長を優に超えていました。
たまたま現場にいた棟梁は津波から逃れ屋根に登りましたが、津波は一向に収まらず逃げることもできなかったので、隣家の2階で一晩世話になったと言います。
幸い人的な被害もなく建物の構造に大きな損傷もなかったのですが、土台と柱は塩水に浸かったため、構造材として問題がないかを確認するのに大変な労力を要しました。さらに震災後しばらくは資材が入手できなかったことから竣工が大きく遅れました。
この先どうすればいいのか、どうすれば早く間違いのない家を建てられるのか。
遅々として家づくりが進まないことに、来る日も来る日も棟梁らとともに頭を悩ませたことを思い出します。こうした苦労の末に完成しただけに竣工の日は、オーナーご家族とともに手を取り合い涙しました。
時折、この住まいのお邪魔し、根曲り杉の梁やさまざまに工夫を凝らした箇所を目にするとあの時の苦労がまざまざと思い出されます。しかしご家族が快適に暮らす様子を見れば、あの苦労も決して無駄ではなかったと痛感します。